学習のポイント

・契約成立後に弁済する際、弁済の提供が問題となります。持参債務、取立債務の区別によって、弁済の提供の内容が異なる点を理解しよう。

①契約成立後の債務の履行

(1)権利義務の発生と弁済

① 契約の効力

売買契約が成立すると、契約当事者に権利義務が発生します。たとえば、高級時計の売買契約の場合、売主は代金を請求する権利を有しかつ目的物(時計)を引き渡す義務を負います。買主は代金を支払う義務を負いかつ時計の引渡しを請求する権利を有することになります。

② 弁済の内容と場所(特定物か不特定物かで異なる)

弁済とは債務者が債務の本旨に従って債務の内容を実現することで、弁済がされると債務は消滅します。弁済の場所は、契約で定めることができますが、定められていない場合には契約の目的物が特定物か不特定物かで異なってきます。特定物は当事者が契約時に具体的に特定していた物で、不特定物は特定物以外の物で種類別に決められる物です。特定物を目的とする契約は、債権発生時にその物が存在していた場所、不特定物を目的とする契約は、原則として、債権者の現在(弁済時)の住所が弁済の場所となります(民法484条)。

(2)弁済の提供

① 弁済の提供(意昧)

弁済の提供とは、債務者側で債務の履行のためにできるすべてのことを行い、あとは債権者が協力すれば履行が完了するという債務者側の行為です。たとえば、債務者が弁済期日に目的物を債権者の営業所に持参する行為などです。債務者は弁済の提供をすれば、仮に債権者が受領しなくても、そのときから債務不履行の貞任を免れることになります(民法492条)。

② 瑕疵ある物の提供

特定物の場合、他に替わりの物はないので、瑕疵ある物の提供でも弁済の提供と認められ、後は瑕疵担保責任の問題となります。不特定物の場合、他に替わりの物がある以上、債務の本旨に従った履行とは認められず、債務者は依然として瑕疵のない物を提供する義務があり、履行期に遅れれば債務不履行責任を負うことになります。

(3)目的物の所有権の移転時期

売買契約では、目的物の所有権移転時期は、原則として、売買契約の当事者間で意思表示が一致したときです(民法176条)。ただし、代金の支払いが後払いや分割払いとされている場合、特約で、代金完済時とすることもできます。

②債務不履行

(1 ) 債務不履行(意昧)

債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をせずかつそのことにつき債務者に故意または過失(帰責事由)がある場合、債務不履行があるといいます。
債務不履行があると、債権者は、要件を満たせば、履行の強制、損害賠償の請求、契約の解除ができます。損害賠償の請求は原則として金銭によります(民法417条)。

(2)種類

① 履行遅滞

故意または過失によって履行期に履行が可能なのに履行をしないことで、たとえば、土地の売買で、売主Aが過失によって履行期に土地を明け渡さない場合などです。

② 履行不能

債務者が故意または過失によって契約成立後に履行できなくなることで、たとえば、中古住宅の売買契約が成立した後、売主の過失によって当該住宅が焼失した場合、履行不能となります。

③ 不完全履行

債務は一応履行されたが、その履行が不完全で、債務の本旨に従った履行とはいえない場合で、改めて完全な履行を請求できる場合と完全な履行を請求しでも意味がない場合に分かれます。

③受領遅滞

受領遅滞とは、債権者が債務の履行を受けることを拒絶または受けることができないことをいいます。債権者が受領しないことによって増加した費用は債権者の負担になり、債務者は目的物を供託して債務を免れることもできます。

④担保責任

特定物を目的とする売買契約で、成立時に目的物に瑕疵があるとき、別の物に替えることはできず、売主に責任を負わせたものです。売主に帰責事由は必要ではなく、民法で認められたものです。買主は要件を満たせば、損害賠償、契約の解除、代金減額の請求ができます。たとえば、AがBに売り渡した中古住宅に雨漏りがあった場合、Bは損害賠償請求権、解除権、代金減額請求権などを請求できます。担保責任は、契約成立前から存在していた欠陥(瑕疵)の問題で、債務不履行責任が、契約後に生じた欠陥などによって契約内容が実現できない場合の問題である点と異なります。瑕疵担保責任が代表的なものです(民法570条)。

⑤危険負担

(1 )危険負担(意昧)

売買などの双務契約において、一方の債務が債務者の故意または過失(帰責事由)によらず成立後に不能になったとき、その履行不能の危険を債権者と債務者のいずれが負
担するかという問題です。債務者の帰責事由を問題にしていない点で、債務不履行とは異なります。

(2)種類

① 債権者主義

履行不能となった債権の債権者が反対債務を負担します(民法534条)。売買契約では買主の負担とされ買主は目的物を受け取ることができず、代金支払義務を負うことになります。

② 債務者主義

履行不能となった債権の債務者が反対債権も失う場合です(民法536条)。





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