学習のポイント
・手形、小切手の経済的役割として、支払いの手段、信用の手段、送金の手段として機能していることを理解しよう。
・法律的特質として、有価証券、設権証券性、無因証券性、文言証券性、要式証券性について原因関係と区別して理解しよう。
①手形・小切手の経済的役割
(1)概要
通常、消費者が小売商から売買によって物を購入する場合は、代金の支払いと物の引渡しによって取引は終了します。高額な商品の場合は、クレジットカードによる支払いもあります。ところが、生産者と卸売商間、卸売商と小売商間のように数量や回数の多い企業間の取引の場合、あらかじめ当事者間で定めた支払期日に銀行などの金融機関の取引の相手方の口座への振込みや手形、小切手による代金決済が広く行われています。手形・小切手は個人の日常の取引で利用されていなくても、商取引では代金支払いの手段として重要な役割を果たしているといえます。
企業間の取引の決済方法には、その場で現金決済する現金取引と一定期間支払いを猶予する信用取引があります。前者には小切手が利用され、後者には手形が利用されています。
(2)支払手段としての利用
たとえば、酒造の卸売商Bが酒造メーカーAから商品を仕入れている場合、AB間の取引の回数、金額、数量が増加してくると、仕入れのたびに現金による決済をすることは煩わしく、現金を持ち歩くことによる紛失などの事故が生じる可能性も増大してきます。そのため、Bは銀行に支払資金を頂けておき、その都度、現金で支払う代わりに、Aに小切手を振り出して、実際の支払いを銀行に任せれば、現金で決済する煩わしさと危険を回避できることになります。
(3)信用の手段としての利用
卸売商Bが仕入時に代金を支払うことはできませんが、3ヵ月後ならば支払えるという場合、Bは3ヵ月後に支払うことを約束した手形をAに振り出して商品を仕入れ、3ヵ月の間にその商品を売却するなどして資金調達すれば、仕入先Aに渡した手形を決済し支払いを完了できることになります。
②手形・小切手の種類
(1 ) 約束手形と為替手形
① 約束手形
約束手形は、振出人が受取人(名宛人)に対し、一定の期日に一定の金額を支払うことを約束した証券で、振出人が支払いの約束をします。わが国では手形取引の大部分は約束手形で行われています。
② 為替手形
為替手形は、振出人が支払人(名宛人)に対して、一定の期日に一定の金額を受取人に支払うように委託した証券です。振出人が別の人(支払人)に支払いの依頼をする点が約束手形と異なります。
(2)小切手
小切手は、為替手形と同様に、振出人が支払人(名宛人)に対して、一定の期日に一定の金額を受取人に支払うよう委託した証券です。小切手は、為替手形と異なり、現金取引の代替手段として用いられます。
③取引行為
(1) 振出
振出とは手形や小切手を発行する行為のことで、振り出す主体を振出人といいます。振出人は、通常、銀行に当座勘定口座を設けて、銀行に手形金や小切手金の支払いの窓口になることを委託し、統一用紙に必要事項を記入して支払先に引き渡します。
(2)裏書
裏書とは、手形を譲渡する場合、手形の裏面に必要事項を記入した上で譲受人に手形を引き渡すことをいいます。
(3)支払い
約束手形では、所持人が満期かそれに続く2取引日内に支払人に手形を提示します。小切手では、受取人が小切手の裏面に住所・氏名を記入し、支払銀行に提示します。
④法律的特徴
(1)有価証券
財産権を表す証券で、権利の移転に証券の交付を、権利の行使に原則として証券の所持を必要とする証券で、手形・小切手は代表的なものです。
(2)設権証券性
手形が発行される基礎には売買などの原因があるのが普通であるが、手形に表示される権利は、このような既存の原因関係上の権利ではなく、一定の金額を手形上に記載
して振り出すことで証券に表示された内容の債権が発生します。つまり、手形上の権利の設定は証券の作成自体によって生じることになります。
(3)無因証券性
債権または債務を発生させた売買などの原因が有効であるか否かに関係なく常に独立の効力を認められる証券。原因である法律関係の有効な存在を要件とせず、原因関係と手形上の法律関係(手形関係)は、法律的には別個独立のものとされ、そのため、権利の行使に原因関係の証明は必要なく、また、その権利は原因関係が無効、取消しまたは解除されても手形関係は影響を受けないことになります。
(4)文言証券性
証券の表す権利の内容が、証券の文言のみで定まる証券。手形や小切手は、権利の発生・移転・行使の全段階で証券が必要とされることからその権利・義務の内容は証券の記載のみによって決定されます。
(5)要式証券性
記載事項が法律によって決められている証券。様式性の程度は一様ではないが、手形・小切手は法定事項の1つでも欠くと証券が無効となります。
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