学習のポイント

・労務供給型の契約が、所有権移転型の契約、貸借型の契約と具体的に異なる点を理解しよう。
・請負契約、委任契約、寄託契約の各々の特徴と違いを理解しよう。

①労務提供型の契約

契約には、これまで学習してきた所有権が移転する契約(移転型の契約)、消費貸借のように所有権は移転しない契約(貸借型の契約)のほかに労務型の契約があります。請負契約、委任契約、寄託契約がそれで、たとえば、ビルの建設のように他人から注文を受けて仕事を完成させる契約(請負)、弁護士や司法書士が依頼者の法律問題を解決処理する契約(委任)、倉庫業者が他人の物を預かる契約(寄託)などがあります。

②請負契約

(1)請負契約(意昧)

前負契約とは、請負人がある仕事を完成させることを約束し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を与えることを約束する契約です(民法632条)。たとえば、土木・建設工事などについて訪け負う建設会社が請負人、注文した者が注文者となります。請負人と注文者の合意のみで成立する有償・双務・諾成契約です。
請負は仕事の完成を目的とするものであり、労務はその手段にすぎないので、労務の供給がされても仕事が完成されなければ請負人は債務を履行したことにならず報酬を請求することもできません。

(2)請負人の義務

① 仕事完成義務

請負人は仕事を完成する義務を負いますが(民法632条)、請負人自身が行う必要はなく、特に禁止されていない限り、仕事を完成させるために仕事の全部または一部を各種の専門業者に請け負わせることができます。しかし、建設業法では、原則として自分が請け負った仕事を一括して他人に請け負わせる一括下請負は禁止されています。請負人が約束の期日までに仕事を完成せず、それが請負人の責任によって生じた場合は、注文者は債務不履行を理由に請負契約を解除できます。
また、注文者は請負人が仕事を完成する前ならば、債務不履行の有無にかかわらず、いつでも損害を賠償して契約を解除できます(民法641条)。

② 担保責任

仕事の目的物に瑕疵があった場合、請負人は担保責任を負うが、隠れた瑕疵でなくとも認められます。無過失責任です。

( i )瑕疵修補請求権(民法634条1頁)

完成した仕事に欠陥があったときに、注文者が瑕疵の修理を請求できます。売買契約では買主に認められていないものです。

(ii )損害賠償請求権(民法634条2項)

修補請求権の代わりにまたは修補請求権とともに請求できます。

(iii)解除権(民法635条)

欠陥の程度が重大で、仕事の結果が請負契約の目的を達成できないときは契約を解除することができます。ただし、建物その他土地の工作物について完成後は認められません。請負人が工作物を撤去する負担と社会的損失が大きいからです。

(3)注文者の義務

注文者は、請負人の仕事の結果に対して報酬を支払う義務を負います(民法632条)。報酬の支払い時期は、仕事の目的物の引渡しを要する場合は引渡しと同時に、物の引渡しを要しない場合は仕事完成の後とされます(民法633条、624条1項)。

③委任契約

(1) 委任契約(意昧)

委任契約とは、委任者(依頼する者)が受任者(依頼される者)に事務の処理を委託し、受任者が承諾することによって成立する契約です(民法643条)。たとえば、前述した弁護士に対して法律事務処理の依頼、旅行代理店への旅館の予約依頼などです。

(2)受任者の義務

受任者は善良な管理者の注意義務をもって委任事務を処理しなければなりません(民法644条)。委任者と受任者には信頼関係が存在しているからです。

(3)委任者の義務

① 報酬支払義務(有償の場合のみ)

委任契約は無償が原則で、特約がなければ、受任者は報酬を請求することができません(民法648条1頃)。報酬を請求する場合、特約がない限り、後払いが原則です。つまり、委任事務を履行した後でなければ報酬を請求することができません(民法648条2項本文)。期間によって報酬を定めたときは、その期間経過後に報酬を請求することができます(民法648条2項ただし書)。

② 商人の場合

商人がその営業の範囲内で委任契約を結んだときは、報酬の約定がなくても委任者は受任者に対して報酬を支払わなければなりません(商法512条)。

④寄託契約

(1)寄託契約(意昧)

寄託とは、受寄者(預かった者)が寄託者(預けた者)のために物を保管することを約束してある物を受け取ることによって成立する契約です(民法657条)。
たとえば、倉庫業者の倉庫に商品を預けるとき、倉庫業者が受寄者、商品を預けた者は寄託者です。要物契約で、原則として無償・片務契約です。

(2)受寄者の義務

特約で有償の寄託を受けた場合、善良な管理者の注意義務をもって寄託物を保管する義務を負います(民法400条)。これに対し、無償で寄託を受けた場合、注意義務は軽減され、自己の財産に対するのと同一の注意義務をもって、寄託物を保管する義務を負います(民法659条)。

(3)寄託者の義務

原則として無償ですが、特約があれば受寄者は報酬を請求することができます。有償の場合、報酬の支払いは、後払いが原則ですが、一定の期間ごとに支払うときはその期間経過後に支払います(民法665条、648条2項)。





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