学習のポイント

・相続の承認や放棄は、いつまでできるのかについて、しっかり覚えよう。
・単純承認、限定承認、相続の放棄の違いについて学習しよう。

①相続があったときの相続人の対応

(1)相続の承認または放棄をすべき期間

相続が開始したからといって、相続人は、当然に被相続人の有する財産を承継するわけではありません。相続財産の内容によっては、多額の借金が残されているという事情から、相続人は、相続することを躊躇することもあるでしょう。そこで、相続人に、相続するかどうかの熟慮期間を設けています。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、相続について、単純もしくは限定の承認または放棄をしなければなりません。ただし、この3ヵ月の期間は、請求により伸長することができます(民法915条1項)。

相続人の対応については次の①~③となります。
①単純承認
②限定承認
③相続の放棄

(2)相続財産の管理

相続人は、相続の承認または放棄をするまで、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければなりません(民法918条1項)。

②相続の承認及び放棄の撤回及び取消し

(1)相続の承認及び放棄の撤回

相続の承認及び放棄は、相続の承認または放棄をすべき期間内でも、撤回することはできません(民法919条1項)。期間内に単純もしくは限定の承認または放棄をすると、期間内であっても言い直しはできないのです。

(2)相続の承認及び放棄の取消し

詐欺や強迫により、制限行為能力であることにより、または後見監督人の同意を得ずに後見人が被後見人に同意を与えたことにより、相続の承認または放棄をした場合には、その相続の承認または放棄の取消しを家庭裁判所に申述することができます(民法919条2項、4項)。
取消権は、追認をすることができる時から6ヵ月間で時効消滅します。また、相続の承認または放棄の時から10年を経過すると取消権を行使できません。

③単純承認

(1)単純承認とは

単純承認をすると、相続人は、無限に被相続人の権利義務を承継します(民法920条)。したがって、被相続人の負担していた債務について、相続財産で支払いきれない場合、相続人が自己の財産から支払うことになります。

(2)法定単純承認

次の①~③のいずれかの場合、相続人は、単純承認をしたものとみなされます。
① 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき
ただし、保存行為及び短期賃貸借の期間を超えない賃貸をしても、単純承認をしたことにはなりません。
② 相続人が、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に限定承認または相続の放棄をしなかったとき
③ 相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部または一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき

ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、単純承認をしたことにはなりません(民法921条)。

④限定承認

(1)限定承認とは

相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができます(民法922条)。

(2)共同相続の場合

相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してしなければなりません(民法923条)。

(3)限定承認の方式

相続人は、限定承認をしようとするときは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければなりません(民法924条)。

(4)限定承認をしたときの権利義務

相続人が限定承認をしたとき、相続人がその被相続人に対して有した権利義務は、混同による消滅をしなかったものとみなされます。

(5)限定承認者による管理

限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません(民法926条1項)。

⑤相続の放棄

(1)相続の放棄とは

相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

(2)相続の放棄の方式

相続の放棄をしようとする者は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヵ月以内に、家庭裁判所に相続の放棄をする旨を申述しなければなりません(民法915条1項、938条)。

(3)相続の放棄をした者による管理

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません(民法940条1項)。





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