学習のポイント

・約定担保物権として、民法は質権と抵当権を定めています。この両者の特徴と違いについて学習しよう。

①約定担保物権

債権回収のため、あらかじめ債権者は担保設定者(債務者あるいは第三者)との問において担保の設定契約を締結することがあります。

【質権】
設定者が担保となる財産を債権者に引き渡すことにより成立する担保物件です(原則として要物契約)。

【抵当権】
設定者が担保となる財産の占有を留めたまま、債権者との合意により成立する担保物件です。
設定者は債務者に限らず第三者でも構いません。債権者は、債権回収にふさわしい財産を有する者を相手に担保の設定契約を締結したいからです。この第三者のことを物上保証人といいます。

②質権

(1)質権(意味)

質権には、担保となる財産権が動産であるか、不動産であるか、債権であるかによって、動産質権、不動産質権、債権質権(権利質)の3種類があります。
動産質権では、質権設定の合意と担保となる動産の引渡しにより成立し、占有が対抗要件になっています(民法344条、352条)。
不動産質権も、質権設定の合意と担保となる不動産の引渡しにより成立し、登記が対抗要件となります(民法177条、344条)。
債権質権では、質権設定の合意と証書があれば証書の引渡しにより成立し、通知または承諾などの債権特有の対抗要件を具備することになります(民法363条)。
質権には、担保物を債権者である質権者のもとに引渡し留置させることにより、債務者などに弁済を促すように心理的圧迫を加えるという特徴があります。

(2)質権の性質内容

付従性、随伴性、不可分性、物上代位性があります。
質権は、債権回収のために、担保となる財産権を競売にかけて債権の優先弁済を受けることのできる約定担保物権です。債権質権では、債権者が債務者-に代わって第三債務者から直接に債務者の有する債権の取立てをし、債権者の債権の有線弁済を実現することができます(民法366条)。

③抵当権

(1)抵当権(意味)

民法の規定する抵当権は、不動産(土地・建物)あるいは地上権・永小作権を担保として債権の優先弁済を受けることのできる約定担保物権です。
質権とは異なり、動産や賃借権などの債権を担保として抵当権を設定することはできません。登記が対抗要件となります(民法177条)。したがって、先順位の登記のされている抵当権者が優先弁済を受けた後に、後順位の登記のされている抵当権者が配当を受けることになります。抵当権の設定契約締結の日の先後によるのではありません。
抵当権は、個々の不動産・地上権ごとに設定されます。したがって、1つの債権を担保するために土地と建物に抵当権を設定した場合には、土地・建物の2つの抵当権が成立し、共同抵当権となります。

(2)抵当権の性質

付従性、随伴性、不可分性、物上代位性があります。

【付従性】
被担保債権が弁済や時効などにより消滅すれば、抵当権は消滅します。したがって、債権が消滅した場合に、抵当権設定登記のされている不動産などについて抵当権抹消登記の手続きをします。

【随伴性】
被担保債権が債権譲渡された場合には、抵当権も譲受人である新債権者に移転します。

【不可分性】
被担保債権が一部弁済された場合、抵当権は残額債権全部のために存続します。抵当権が弁済額に応じて減少するわけではありません。

【物上代位性】
担保物が消滅などしても、火災保険金星丘権、損害賠償請求権、売買代金債権、賃料債権などの担保物の価値の変形物に対して抵当権の効力を及ぼすことができます。
金銭が設定者に支払われる前に、抵当権者による差押えが必要。

(3)被担保債権の範囲(民法375条)

後順位抵当権者などがいない場合には、元本債権及び利息その他の定期金の全額について優先弁済を受けられます。
後順位抵当権者などがいる場合には、元本債権は全額優先弁済を受けられますが、利息その他の定期金については、担保物の競売による配当における優先弁済の範囲は、満期となった最後の2年分に限られることになります。
任意弁済の場合、後順位債権者などがいても、債務者は、元本債権と利息その他の定期金の全額の弁済をする必要があります。

(4)根抵当権(民法398条の2)

根抵当権は、一定範囲の不特定の債権を極度額の範囲で担保する抵当権です。
根抵当権者と根抵当権設定者との設定契約により成立し、登記が対抗要件となることは、普通抵当権と同様です。
普通抵当権は、特定の債権の担保のために設定されるので、付従性や随伴性が認められます。
これに対して、根抵当権は、一定範囲の不特定の債権を担保するので、元本確定前は、個別の債権との結び付きはなく、付従性や随伴性が認められないという特徴があります。したがって、個別の債権が全額弁済されても、根抵当権が当然に消滅するのではありません。また、個別の債権が譲渡されても、当然に根抵当権が譲受人に移転するわけではありません。
また、根抵当権は、極度額を優先弁済の範囲とすることから、元本債権・利息債権などのすべてについて極度額の範囲で担保されます。利息などについて、普通抵当権とは異なり、満期となった最後の2年分という制限はありません。





第4節へ進む

第2節へ戻る

問題演習にチャレンジ!