学習のポイント

・債権の管理にとって、債権の消滅に関する知識は必須です。
・債権は、どのような場合に消滅するのかを理解しよう。

①債権の管理

債権を適切に管理していくためには、

①管理の対象である債権の発生原因である契約自体が有効に成立しているか
②債権の履行期が到来しているか
③債権が消滅していないか

に配慮する必要があります。

(1) 契約が有効に成立しているかの確認

売買契約であれば、口約束だけで契約は成立します(諾成契約)。売買契約書の作成は、契約の存在を明確にするにすぎません。ところが、金銭消費貸借契約である場合には、口約束だけでは足りず、金銭の交付まで必要になります(要物契約、民法587条)。また、保証契約では、口約束の他に契約書を交付することまで必要となります(要式契約、民法446条2項)。
このように契約によって、有効に成立するための要件が異なるので、どのような契約を締結しているのか確認する必要があります。

(2) 債権の履行期がどのようになっているかの確認

債務者には、期限の利益があり、期限が到来するまでは、履行する必要がありません。そこで、履行期について、どのように取り決めているかを確認する必要があります。

【確定期限】・・・・期限を日にちで決めている場合
【不確定期限】 ・・・将来発生が確実な事柄が発生したときを期限とする場合
【期限の定めなし】 ・期限を特に定めなかった場合

また、売買契約や交換契約など双方に対価的な債務が発生する契約(双務契約)の場合、双方の債務は、原則として同時履行の関係になります。
そこで、債権の実現を求める場合には、相手方に対して自己の債務の提供をしておく必要があります(同時履行の抗弁権、民法533条) ただし、先履行の特約がある場合には、その債務は先に復行されるべきですから、債権者から履行の請求を受けた場合に、債務者は同時履行の抗弁権を行使して履行を拒絶することはできないのが原則です。

(3) 債権が消滅していないかの確認

債権は、所有権とは異なり、時効により消滅します。そこで、債権が民事債権なのか商事債権なのか、弁済期からの年数はどうか、について確認します。

②債務の消滅

債権の消滅事由のうちで主要なものは次のとおりです。

弁済  債務の本旨に従った履行(本来の満足を得られる場合)
供託  受領拒絶・受領不能・債権者の不確定の場合に弁済の目的物を供託所に保管させることで債務が消滅する
代物弁済 債権者の承諾を得て、債務の目的物とは別の物を現実に給付し、必要な対抗要件を具備させることにより債務が消滅する
相殺 相対立する債権を相当額で消滅させる一方的な意思表示をすることにより相殺適状になったときにさかのぼって債権が消滅する
更改 債権債務の要素を変更させることにより、本来の債権債務を消滅させるとともに、新たな債権債務を発生させる契約
免除  債権者の債務を免れさせる債権者の一方的な意思表示
混同 相続や債務譲渡などで債権と債務が同一人物に帰属することになり、債権債務の対立関係が解消して、債務が消滅する
債権の消滅時効  履行期が到来した後、債権の不行使の状態が継続することにより債権が消滅する

③債権の消滅時効

時効には、時の経過による事実状態を尊重し、たとえ真実の権利関係とは異なるとしても権利を取得することとする「取得時効」と、時の経過により権利を消滅させる「消滅時効」とがあります。
消滅時効は、権利の上に眠る者は保護しないという趣旨に基づくので、権利が行使できる状況になった時から一定期間権利不行使の状態が継続した場合であることが必要となります。
時効期間の進行中に、時効中断事由が発生すると、権利関係の存在が明確となるため、継続した時の経過は解消し、権利を行使できる時から新規に時効の進行が開始します(民法147条、157条)。

起算点 権利を行使できる時
確定期限    ⇒ 期限の到来の時
不確定期限   ⇒ 期限の到来の時
期限の定めなし ⇒ 債権成立の時
年数 民事債権 ⇒ 原則10年間
商事債権 ⇒ 5年間
中断事由 請 求:訴えの提起など
差押え:確定判決などの債務名義に基づいて行う強制執行
仮差押え:金銭債務の保全手続き
仮処分:物の引渡しや仮の地位についての保全手続
承 認:一部弁済や利息の支払いなどにより債務者がみずから債務を負って
いることを認めること
時効の効力 起算点にさかのぼって効力が発生する

時効の利益を受けるためには、時効の援用をすることが必要です。時効の援用とは、時効の利益を受ける旨の意思表示です(民法145条)。
時効の利益を受けることを潔しとしない場合は、時効の利益を放棄することになります(民法146条)。この時効の利益の放棄は、時効の援用をしないという意思表示です。





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