学習のポイント

・法定財産制の内容をしっかり理解しよう。

①夫婦間の財産関係

夫婦問の財産関係について、婚姻前に合意(夫婦財産契約)があればそれに従います。しかし、このような合意が為されることは極めて少ないです。
夫婦財産契約が為されない場合には、民法の規定に基づき、夫婦間の財産関係は法定財産制により処理されることになります。
法定財産制では、夫婦別産制を基本としつつ、共同生活を維持するのに必要な範囲で生じた債務については日常家事に関する債務として、夫婦の連帯責任としています。

②夫婦財産契約

夫婦は、それぞれが所有している財産及び婚姻届出後に得るであろう財産について、法定財産制と異なる契約(夫婦財産契約)を締結することができます。

  • 契約締結の時期
    婚姻の届出前まで(民法755条)
  • 契約の内容
    自己の財産の管理権を他方配偶者に委ねる財産を共有とする など
  • 第三者対抗要件
    婚姻届出までに登記をする(民法756条)
  • 契約の変更
    婚姻の届出後は変更できない(民法758条1項)
    変更の登記が必要(民法759条)

③法定財産制

夫婦財産契約が為されていない場合には、法定財産制によります。
法定財産制では、次の3項目が規定されています。
・夫婦間における財産の帰属
・婚姻費用の分担
・日常家事に関する債務の連帯責任

(1)夫婦間における財産の帰属

  • 原則
    夫婦それぞれの特有財産(自分のもの)
  • 例外
    夫婦のどちらに属するか明らかでない財産は共有

夫婦は他人の集まりですから、いくら仲が良くても自分の財産は自分のものです。つまり、夫婦の一方が婚姻前から有する財産は、その人の特有財産となります。また、婚姻中に自己の名で得た財産も、その人の特有財産となります(民法762条)。財産をめぐる法律関係を分かりやすくするための一つの技術といえます。
しかし、これでは内助の功が無視されてしまいます。そこで、民法は、離婚となったときに、財産分与請求により清算することにしました。また、相続の場合には、法定相続分や遺産分割協議において内助の功が反映できるように配慮しています。
夫婦が共同生活を送っていれば、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産も生じてくるでしょう。それは、夫婦のどちらのものともいい難いので、夫婦の共有としたのです。

(2)婚姻費用の分担

夫婦共同生活を維持していくためには、衣食住についてそれなりの出費が生じます。これが婚姻費用です。
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担します(民法760条)。生活費として夫婦の一方が拠出した金銭は、婚姻費用となります。

(3)日常家事に関する債務の連帯責任

売買契約を締結した場合、買主は代金を支払う義務を負いますが、買主以外の者は代金の支払い義務を負わないのが原則です。しかし、夫婦のどちらか一方が代金後払いで店舗から食料品や衣類などを購入した場合、その売買契約の当事者となった夫婦の一方がその代金の支払い義務を負うのみならず、契約の当事者とならなかった夫婦の他方も、自己の特有財産をもってその代金の支払い義務を負うことにしました。したがって、店舗は、夫婦のどちらに対しても代金の全額請求ができることになります。
このことを民法は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う」と規定しています(民法761条)。日常家事の範囲内の債務は、夫婦共同生活を維持するための債務ですから、その範囲内において、夫婦はお互いに相手方の特有財産の財産管理権を与えているのです。
このような仕組みになっているので、店舗は安心して取引に応じ、結果として、夫婦共同生活も維持できることになります。
日常家事によって生じた費用というのは、夫婦共同生活を維持するために日々必要とする衣食住に関する費用、医療費、子供の教育費などをいいます。それぞれの家庭によって生活の内容が異なりますから、日常家事の範囲に含まれるかどうかも、家庭ごとに異なることになりますが、取引の安全の点から、客観的に、その法律行為の種類や性質なども考慮して判断されます。
夫婦共同生活のための居住用家屋の賃貸借契約は、日常家事の範囲に含まれ、家賃債務の支払いは連帯責任となります。しかし、居住用であっても不動産の購入などは、日常家事の範囲には含まれないのが通常です。
例外として、他方配偶者が日常家事債務の連帯責任を負わない場合があります。
・第三者に対して責任を負わない旨を予告した場合
・発生した債務が日常家事の範囲外である場合
連帯責任を追及できないという不利益を第三者に予想外に課さないように配慮したものです。





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