学習のポイント
・夫婦共同生活の実現について、民法の規定を理解しよう。
①婚姻の成立と内縁関係
夫婦は婚姻の契約(合意)をするとともに、作成した婚姻届が受理されてはじめて、夫婦の婚姻関係が成立します。婚姻届が受理されるためには、婚姻適齢、重婚あるいは近親婚などの婚姻障碍事由がないことが必要です(民法740条)。
夫婦共同生活の実態はあっても、戸籍法の定めるところによる届出をしていない場合は、いわゆる内縁関係にとどまり、法律上の婚姻関係にはなりません。しかし、その実態を尊重し、準婚関係として、可能な限りではありますが婚姻関係に準じた扱いが為されています。
②婚姻の効力
婚姻することにより①~⑤のような法律関係が生じます。
① 夫婦同氏の原則
② 夫婦の同居、協力、扶助の義務
③ 貞操義務
④ 未成年者について婚姻による成年擬制
⑤ 夫婦間の契約の取消権
(1)夫婦同氏の原則
① 夫婦の氏
夫婦は、合意により、共通の一つの氏を用います(民法750条)。氏は、夫婦のどちらかの氏を選択するのであり、全く別の氏を用いることはできません。
内縁関係の場合は、夫婦はそれぞれ自分自身の氏を称し続けます。
② 夫婦の一方が死亡した場合の生存配偶者の氏
夫婦として用いていた従前の氏を引き続いて用いるほうが社会生活を送りやすいこともあることから、婚姻により氏を変えた生存配偶者の氏もそのままであるのが原則です。
しかし、生存配偶者のその後の社会生活上の都合が考慮され、いつでも婚姻前の氏(旧姓)に戻すことができます(民法751条1項)。
③ 離婚した場合の夫婦の氏
婚姻により氏を変えた配偶者は、離婚により婚姻前の氏に戻るのが原則です。
婚姻関係を意思により解消させ、それぞれ将来に向かって新しい生活をスター卜するのだから、氏も当然に婚姻前の元の氏にするのがふさわしいといえるからです。しかし、長年使ってきた氏を離婚により旧姓に戻すのは、ビジネスパーソンとして社会活動をしてきた方などにとってその後の社会生活上の不都合が大きすぎることもあります。そこで、離婚後3ヵ月以内に離婚時の氏(婚姻中に用いていた氏のこと)を使用する旨の届出をすれば、離姻時の氏を使用できます(民法767条)。
(2)夫婦の同居、協力、扶助の義務
夫婦は家庭という共同生活を維持していくのですから、相互に同居、協力、扶助の義務を負います(民法752条)。しかし、個人の尊重という点から、この義務は法的な強制にはなじみません。
この義務を実現しようとしない場合には、離婚原因となりえます(民法770条1項)。
(3)貞操義務
家庭における一夫一婦制を維持するため、夫婦それぞれに貞操義務を負わしています。この義務に違反した場合には、離婚原因となりえます。
(4)未成年者について婚姻による成年擬制
未成年者は、保護者である法定代理人(両親や未成年後見人のこと)の同意を得ずに財産的取引を行った場合には、判断力が不十分な未成年者を救済するため、その取引を取り消すことができるのが原則です。
しかし、未成年者も婚姻をすれば自立した家庭を築いたといえます。また、家庭内のことに法定代理人の干渉を許すと、円満な家庭を壊すことになります。
そこで、未成年者であっても婚姻をすれば成年者と同じ扱いをし、法定代理人の干渉を排除することにしました(民法753条)。この場合には、未成年者であることを理由に、契約を取り消すことはできません。
(5)夫婦間の契約の取消権
夫婦間の契約は、愛情のあらわれでもありますから、その実現について、法律は干渉しないということにしました。したがって、夫婦間で為された契約は、婚姻中は、第三者の権利を害するというような迷惑を及ぼさない限り、取り消すことができることを原則としました(民法754条)。
しかし、夫婦関係が破綻してしまっている場合に為された契約は、愛情のあらわれとはいえないので、理由なく取り消すことはできません。
③婚姻関係の解消
婚姻関係の解消には、次の2つの場合があります。
・夫婦の一方の死亡の場合
・離婚の場合
(1)夫婦の一方の死亡の場合
夫婦の一方が死亡すると、夫婦共同生活をしているという状態ではなくなりますので、婚姻関係は将来に向かって当然に終了します。
(2)離婚の場合
夫婦が離婚をすると、夫婦共同生活は解消されますので、婚姻は将来に向かって終了します。
離婚には、夫婦の話し合いによる協議離婚(民法763条)と不貞、悪意の遺棄、婚姻関係の破綻などの法定の離婚原因に基づく一方的な裁判離婚(民法770条)とがあります。いずれの離婚も、戸籍法による届出が必要となります。
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