学習のポイント

・売買契約における所有権の移転時期について原則と例外を理解しよう。
・物権の二重譲渡における対抗要件(登記と引渡し)の適用範囲と即時取得の意義と適用範囲を理解しよう。

①財産の所有権の移転時期(売買契約の場合)

売買契約の対象となるもので代表的なものは不動産や動産であり、特約がない限り、当事者の意思表示だけで移転の効力を生じます(民法176条)。売買契約では、売主の意思と買主の意思が合致すれば目的物の所有権は移転します。売主の意思は「売る」、買主の意思は「買う」という意思表示です。
しかし、特約によって所有権移転時期を変更することは可能で、内容的には目的物の引渡し、登記または代金の支払いがあったときに所有権が移転するというものが多いです。たとえば、不動産の売買契約において、「当該不動産は、所有権移転登記申請のときに、売主から買主に所有権が移転する。」旨の特約などです。

②所有権の移転を第三者に主張する要件

(1)対抗力

対抗)」の有無は当事者間では問題とならず、当事者以外の第三者に対して問題となります。対抗は権利の取得などを第三者に主張することで、対抗力を備えた者が所有権を取得することになります。たとえば、A会社がBに新築の建物を売却したが、同じ建物をCにより高価で売却する契約を結んだ場合、BとCのいずれが所有権を取得するかについて対抗力が問題になります。

(2)不動産

不動産とは、土地とその定着物のこと(民法86条1項)で、定着物の代表的なものが建物です。建物は土地と別個のものとして扱われます。土地や建物の不動産に関する物権の移転、設定については、不動産登記法に従って登記をしなければ、取得した権利を第三者に対抗できません(民法177条)。(1)の新築の建物の二重の譲渡の場合、BとCのうち、先に所有権移転の登記をした者が対抗力を取得することになります。Bが先に登記をすればCに対して新築建物の所有権を主張できます。逆に、Cが先に登記をすればBに対して所有権を主張できます。
所有権を取得できなかった者は売主に対して損害賠償請求権を行使できます。

(3)動産

動産とは、不動産以外の物をいいます(民法86条2項)。乗車券、商品券は無記名債権の一種なので、動産として扱われます(民法86条3項)。動産が二重に譲渡された場合、その所有権を第三者に主張するためにはその動産の引渡しを受けなければなりません(民法178条)。

②即時取得

(1)即時取得(意昧)

物を他人から借りたか預かった者または盗んだ者はその物を所持しているが、所有権を有しているわけではありません。厳密には、このように当該動産の譲渡を受けた者は所有権を取持するというわけではないからです。しかし、売買などの取引行為によって他人から物を購入する場合、買主は売主が正当な所有権者であるか否かその都度確認しなければならず、動産の取引を安全かつ円滑に行うことができなくなります。そこで、一定の要件の下に、動産の取得者に権利の取得を認めました。

(2)要件

① 目的物が動産であること

不動産や債権は即時取得の対象にはなりません。

② 取引行為によって動産を動産として取得したこと

即時取得は取引の安全を保護する制度なので、必ず売買などの取引が必要です。
他人の山林を円分の山林と誤信して伐採しても、即時取得によってその材木の所有権を取得することはできません。

③ 前主が無権利者であること

取引の相手方が無権利者でなければなりません。たとえば、無効な売買に基づいて動産を占有している者から購入した場合、即時取得が適用されます。

④ 善意・無過失・平穏・公然に占有を取得したこと

前主である相手方が無権利者であることを知らず、かつ知らないことに過失がないことが必要です。

(3)盗品や遺失物の特則

盗まれた物やなくした物は、即時取得の要件を満たしていても、被害者や、なくした者は、2年間は占有者に対して返還を請求できます。

④財産としての債権の譲渡(民法467条)

ここでの債権はすべての債権を意味するものではなく指名債権に限られます。
指名債権とは、債権者が特定され、債権の成立・譲渡のために、証書の作成・交付が必要としない債権のことです。
たとえば、AがBに消費貸借に基づく金銭債権を有していて、その債権をCに譲渡する場合です。譲受人Cが債務者Bに履行を請求できるか否かが問題となりますが、そのためには、譲渡人(債権者)AからBに対して、AからCに債権を譲渡した旨を通知するか、または譲受人CからAまたはBに債権の譲渡について承諾をしなければなりません。





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