学習のポイント

・契約による債権・債務の発生する場合とよらない場合を比較して理解しよう。
・不法行為の成立要件と損害の内容、併せて特殊な不法行為について各々の違いも比較しながら理解しよう。

①契約によらない債権・債務の発生原因

債権・債務が発生する場合、売買や賃貸借などの契約関係に基づくことが多いが、契約関係に基づかなくても発生する場合があります。たとえば、ある人が自動車事故を起こし他人に損害を与えた場合、加害者と被害者間には契約関係はなくても加害者に不法行為が成立し損害賠償責任という債務が発生します(民法709条)。その他、事務管理、不当利得を原因として、債権・債務が発生します。

②不法行為

(1 )成立要件

① 損害の発生

損害の発生とは、加害行為によって現実に損害が発生していることをいいます。
損害は財産的損害と非財産的損害に分けられます。

② 加害者の故意または過失による行為であること

「故意」とは、他人の権利や利益を侵害することを認識していることをいいます。「過失」とは、自分の行為によって他人の権利・利益を侵害することを予測できたのに不注意でこれを避けるのを怠ったことをいいます。

③ 加害行為と損害との間に因果関係があること

加害行為と損害との聞に因果関係がなければなりません。因果関係は、その行為があればそのような結果の発生も一般的に予見できるという相当因果関係が必要です。

④加害行為が違法であること

「違法」とは、他人の権利または法律上保護される利益を侵害することをいいます。

⑤加害者に責任能力があること

責任能力とは、自分の行為がもたらす結果を予測しそれを回避できる精神的能力をいい、責任能力の有無は行為者ごとに個別に判断されます。未成年者では、11~12 歳より上であれば責任能力を認めています。

(2)効力

①損害賠償の方法、範囲、額の算定

金銭による賠償が原則です(民法722条1項)。額の算定は、原則として、加害行為のときを基準として損害額を算定します。

② 過失相殺

不法行為に際して、被害者にも過失があり、責任能力はなくても物ごとの良し悪しを判断できる能力(事理弁識能力は5~6 歳で備わるとされている)がある場合または損害の公平な分配の観点から被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられる者に過失があるとき(被害者側の過失という)は、それが損害の発生や拡大の1つの原因にもなっている場合、賠償額を減額します。

(3)特殊な不法行為

①責任無能力者の不法行為に対する監督義務者の責任(民法714条)

責任無能力者は自己の行為について不法行為責任を負わないが、親権者、後見人などの監督義務者がその義務を怠った場合には、その監督義務者が損害賠償責任を負います。監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も損害賠償責任を負います。たとえば、幼稚園、保育所、小中学校の教員や保育士などです。

②被用者の不法行為に対する使用者の責任(民法715条)

ある事業のために他人を使用する者は、被用者または従業員がその事業の執行中に第三者に加えた損害について賠償責任を負います。「事業」は営利目的であるか否か、継続的か否かを問いません。使用とは、雇用契約を結んでいなくても事実上、監督・指揮命令の関係があれば認められます。
被害者は、加害者である被用者とその使用者の双方に損害賠償責任を追及できます。使用者が被害者に対し損害を賠償した場合、使用者は被用者に対して一定額まで求償できます。

③ 土地工作物等の占有者及び所有者の責任(民法717条)

土地に接着した工作物(建物など)の設置や保存に欠陥があることによって損害が発生したときは、第一に賃借人などの占有者が賠償責任を負い、占有者が免責されるときは、第二に所有者が賠償責任を負います。たとえば、借りていた建物の外壁が剥がれ落ちて通行人に負傷させた場合、借りていた者に過失があれば損害賠償責任を負います。その者(占有省)が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が損害賠償責任を負います。所有者の責任は無過失責任です。

④ 製造物の欠陥が原因で事故が生じた場合の責任(製造物責任法)

製造物責任とは、製造物の欠陥が原因で他人の生命・身体・財産を侵害した場合に製造者などが追う責任です。被害者は製品に欠陥が存在することを証明できれば製造者の故意・過失を証明せずに損害賠償責任を追及できます(製造物責任法(PL法))。「製造物」とは、製造・加工された動産のことで、不動産や未加工農産物は含まず、「製造業者」とは製造・加工業者、輸入業者で流通業者は含みません。

⑤ 自動車の運行供用者の責任(自動車損害賠償保障法(自賠法))

自動車の保有者(所有者や賃借人など運行供用者という)は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害賠償責任を負います(自動車損害賠償保障法(自賠法))。使用人、友人などに運転させていた場合も適用されます。被害者は、自動車の運行で損害を被ったことを証明すればよく、運行供用者は免責される要件を証明しなければ責任を免れることはできません。

⑥ 共同不法行為

加害者が複数の場合、加害者は各々、被害者に対して共同不法行為と相当因果関係のある全損害について連帯して賠償責任を負います(民法719条)。被得者を救済する趣旨で、被害者は、全損害について加害者の1人または数人に同時または順次に請求することができます。

③事務管理と不当利得

事務管理は、法律上の義務がないのに、他人のために事務の管理を行うことです(民法697条)。たとえば、隣人の摺守中の荷物の代引を立て替えた場合などです。不当利得は、法律上の原因がないのに他人の財産・労務により利益を受け、その結果他人に損失を及ぼすことです(民法703条)。たとえば、貸金業者が利息制限法の上限を超える利息を借主から受け取った場合などです。





第4章へ進む

第7節へ戻る

問題演習にチャレンジ!