学習のポイント
・自力救済が認められない趣旨と裁判手続を理解しよう。
・裁判の種類として、民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟の3種類があり、それぞれ根拠法令があることを理解しよう。
① 権利の実現方法
(1 )権利と義務
権利は、他人に対して一定の行為をすること、またはしないことを法によって主張できることで、義務は、他人に対して、一定の行為をすること、またはしないことを法によって強制されることです。
権利や義務は、法律の定めや契約によって発生します。たとえば、会社が金融機関から金銭の融資を受ける場合、会社は借主、金融機関は貸主ということになり、借主である会社は借りた金銭を返済期に返済する義務があり、貸主である金融機関は貸した金銭につき返済を請求する権利を有することになります。また、個人が日々の生活において、食料品、衣料品をカードで購入する場合も、その代金について支払い期に弁済するという義務を有することになります。同時に、売主は支払い期に弁済を請求するという権利を有しています。
(2)権利の行使 その1(自力救済の禁止)
権利の行使は、権利者が自分の権利の内容を実現する行為で、たとえば、売主が弁済期に代金の支払いを請求し、買主が購入した物の引渡しを請求することなどです。ここで、相手方が応じればよいのですが、応じない場合に裁判所に訴えるかそれとも自分で強制的に権利を実現できるかが問題となります。たとえば、パソコンの売買契約で、売主が売買の対象となったパソコンを買主に引渡したにもかかわらず、買主が代金を支払わない場合に、売主は買主に対して、強制的に代金を支払わせることができるかが問題となります。しかし、これはできないとされています。これを自力救済といい、自分の権利を自分で強制的に実現しようとすることは、原則として禁止されます。相手方が応じない場合は、裁判所に訴えて勝訴して権利を実現していくことが原則です。自力救済が認められないのは、第一に、誤った権利行使が為されるおそれがあり、第二に、権利がある場合でも必要以上の暴力行為、脅迫行為の下で為されるおそれがあり社会の秩序が崩されるからです。
(3)権利の行使 その2(裁判によって権利を実現)
① 裁判所
法律上の争いやトラブルは、最終的には裁判所が解決します。裁判を受ける権利は憲法で認められています。
② 裁判所の種類
最高裁判所:日本に1つしかない裁判所で、上告された事件を扱う終審の裁判所。
高等裁判所:地方裁判所や家庭裁判所で控訴された事件を扱う裁判所。
地方裁判所:原告が原則として最初に訴訟を提起する裁判所。
家庭裁判所:家庭事件、少年の刑事事件を扱う裁判所。
簡易裁判所:140万円以下の民事事件と刑事事件を扱う裁判所。
③ 審級制
審級制は、事件について最初の裁判所で出された判決に不服があるとき、さらに上級の裁判所に審理を求めることができる制度で、2回、上級の裁判所に提起できます。このことを三審制といいます。
控訴:一審の判決に不服ある当事者が上級の裁判所に再審査を請求すること。
上告:二審の判決に不服ある当事者がさらに上級の裁判所に再審査を請求すること。
第一審(請求額) | 第二審 | 第三審 |
地方裁判所 (140万円超) |
高等裁判所 | 最高裁判所 |
簡易裁判所 (140万円以下) |
地方裁判所 | 高等裁判所 |
④ 裁判所で扱う訴訟の種類
訴訟には、民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟があります。
民事訴訟:私人間の権利義務に関する争いを解決することを目的とする訴訟。
刑事訴訟:犯罪を犯した者に対して、同家が刑罰を科すか、科すとしてどの程度の刑罰を科すかを決めることを目的とする訴訟。
行政訴訟:行政機関の行為その他公法上の権利関係について適法か否か、その取消しや変更を求めて争いを解決することを目的とする訴訟。
②法令用語
(1)善意と悪意
「善意」はある事実を知らないことで、必ずしも道義的に良いという意味ではなく、「悪意」はある事実を知っていることで、必ずしも道義的に悪いということではありません。たとえば、AがB書店から本を買い、その本の印刷が不透明で読めない筒所があった場合、AもBも2人ともその事実を知っていたならば、「印刷の不透明で読めない筒所」について両方とも悪意ということになります。また、Aだけ知っていてBが知らなければ、Aが悪意、Bは善意ということになります。
(2)当事者と第三者
「当事者」はある事がらに直接関係ある者で、「第三者」はある事がらに直接関係のない当事者以外の者を意味します。なお、当事者の相続人などの一般承継人は第三者ではありません。当事者の地位をそのまま受け継いでいると考えられるからです。たとえば、Aの死亡によって相続が発生し、相続人がB、Aが生前に売却していた土地の譲受人がCとすると、AとCは売買契約の当事者であり、BとCも当該売買契約の当事者として扱われます。BはAの相続人であり、Aの地位をそのまま受け継いでいると考えられるからです。これに対し、相続人Bが当該土地をDに売却した場合、CとDは互いに第三者となります。
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