学習のポイント
・誰がどのようなことをした場合に犯罪となるのかについて学習しよう。
・会社法にも犯罪となる行為が規定されているので注意しよう。
①犯罪について
ビジネスに関して、違法なことをしてしまった場合、民事上の責任、行政上の責任の他に刑事上の責任を問われることがあります。
刑事上の責任は、罰金刑や懲役刑などの刑罰が科されることとなり、極めてダメージの大きい制裁です。そこで、どのようなことをした場合に、どのような刑罰を科されるのかということについて、あらかじめ法律によって明確に規定しておかなければなりません。このことを罪刑法定主義といいます。
②刑法に規定するビジネス関係の主要な犯罪
(1)従業員が、無断で企業秘密文書を社内でコピーして社外に持ち出した場合⇒窃盗罪(刑法235条)
他人の財物を窃取した者は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
(2)人を騙して、金銭や商品を得た場合・債務の免除をさせた場合⇒詐欺罪(刑法246条1項、2項)
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処されます。人を欺いて、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処されます。
(3)従業員が、集金した金銭を経理担当者に渡さすに使い込んだ場合⇒横領罪・業務上横領罪(刑法252条1項、253条)
自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処されます。業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処されます。
(4)融資の権限を有する金融機関の支店が無担保で金銭を貸し付けた場合⇒背任罪( 刑法247条)
他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を与えたときは、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
(5)営業所に対して頻繁に無言電話を掛け、他の顧客からの電話を妨害した場合⇒業務妨害罪(刑法233条)
虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
(6)銀行員がオンラインシステムの端末を操作して虚偽の入金情報を与える場合⇒電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)
人の業務に使用する電子計算機もしくはその用に供する電磁的記録を損壊し、もしくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報もしくは不正な指令を与え、またはその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、または使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役または100万円以ドの罰金に処されます。
(7)決済に使う目的で、他人名義の約束手形を作成した場合⇒有価証券偽造罪(刑法162条1項)
行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、または変造した者は、3ヵ月以上10年以下の懲役に処されます。
(8)偽造した有価証券を真正なものとして使用した場合⇒偽造有価証券行使罪(刑法163条1項)
偽造もしくは変造の有価証券または虚偽の記入がある有価証券を行使し、または行使の目的で人に交付し、もしくは輸入した者は、3ヵ月以上10年以下の懲役に処されます。
企業活動に関ずる法規制
(9)権限ある公務員に賄賂を贈り、庁舎の備品納入に便宜を図ってもらった場合⇒贈賄罪(刑法198条)
公務員に対して、その職務に関し、賄賂を供与し、またはその申込みもしくは約束をした者は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処されます。
公務員に対して、その職務に関し、請託をして、賄賂を供与し、またはその申込みもしくは約束をした者は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処されます。
なお、収賄をした公務員は、収賄罪(刑法197条1項)に処されます。
③会社法に規定するビジネス関係の主要な犯罪
(1) 取締役等の特別背任罪(会社法960条1項)
取締役、監査役、執行役が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科します。
取締役、監査役、執行役による背任行為の、刑法の背任罪の特別規定です。
(2)会社財産を危うくする罪(会社法963条5項)
取締役、監査役、執行役が、法令または定款の規定に違反して、剰余金の配当をしたとき、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科します。
取締役、監査役、執行役による違法配当を処罰する規定です。
(3)株主等の権利の行使に関する贈収賄罪(会社法968条11頁)
株主総会もしくは種類株主総会、創立総会もしくは種類創立総会、社債権者集会または債権者集会における発言または議決権の行使に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、またはその要求もしくは約束をした者は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処されます。
(4)株主の権利の行使に関する利益供与の罪(会社法970条1項)
取締役、会計参与、監査役、執行役、支配人またはその他の株式会社の使用人が、株主の権利の行使に関し、当該株式会社またはその子会社の計算において財産上の利益を供与したときは、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処されます。
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